社員は企業アスリート!~持続可能なハイパフォーマンス組織を作るためのエネルギー管理術~


はじめに

舞島亜喜子社労士事務所のホームページをご覧いただき、ありがとうございます。

日々の業務の中で、こんなお悩みはありませんか?

「働き方改革で残業時間は減ったはずなのに、社員の生産性が上がらない」
「メンタル不調による休職者が後を絶たない」
「若手が『疲れた』と言ってすぐに辞めてしまう」――。

これらは一見、別々の問題のように見えますが、根底にある原因は共通しているケースが多々あります。それは、私たちがこれまで「時間」の管理ばかりに目を向け、「エネルギー」の管理を疎かにしてきたことにあるのではないでしょうか。

これからの時代、強くしなやかな組織を作るためのキーワードは「企業アスリート」です。

今回のコラムでは、社員を「企業アスリート」と捉え、そのコンディションを戦略的に整えることで、個人の幸福と企業の業績向上を同時に実現する方法について、社労士の視点から深く掘り下げていきます。


1. 企業アスリートとは

「企業アスリート(Corporate Athlete)」という言葉を聞いて、皆様はどのようなイメージを持たれるでしょうか。
「24時間戦えますか」といった昭和のモーレツ社員のことでしょうか?
それとも、体育会系の精神論で無理難題を突破する社員のことでしょうか?

ここで提唱する「企業アスリート」とは、それらとは全く逆の意味を持ちます。

プロのスポーツ選手を想像してみてください。彼らは試合(本番)で最高のパフォーマンスを発揮するために、何をしているでしょうか。
激しいトレーニングはもちろんですが、それと同じくらい、あるいはそれ以上に、食事管理、睡眠の質、メンタルケア、そして戦略的な休息(リカバリー)に情熱を注いでいます。
彼らは知っています。人間のエネルギーは有限であり、酷使すれば枯渇し、適切な回復がなければ次は良い結果が出せないことを。

一方、日本の多くのビジネスパーソンはどうでしょうか。長時間労働が常態化し、睡眠時間を削り、食事はデスクで適当に済ませ、ストレスを抱えながら満員電車に揺られる日々。これは、整備不良のレーシングカーで耐久レースに出場し続けているようなものです。いずれエンジンは焼き付き、リタイアを余儀なくされます。
実際私もそうでした。毎日の長時間労働、家と職場の行き来だけの生活でストレスが溜まっていても、それを吐きだす時間すらない…そして燃え尽きてしまいました。

「企業アスリート」とは、「ビジネスというフィールドにおいて、自身の持てる能力(身体的、感情的、知的、精神的エネルギー)を最大限に発揮し、かつ、それを長期にわたって持続可能にするために、戦略的にコンディションを整えるプロフェッショナル」と定義できます。

単に馬力があるだけでなく、自己管理能力に長け、オンとオフの切り替えがうまく、ストレス耐性が高い人材。それが、現代に求められる企業アスリート像なのです。


2. なぜ今、企業アスリートを考えるのか

なぜ今、この「企業アスリート」という概念が不可欠なのでしょうか。その背景には、ビジネス環境の劇的な変化があります。

① ビジネスの質の変化(「量」から「質」へ)

かつての高度経済成長期や製造業中心のモデルでは、成果は「時間」に比例する傾向がありました。長く働けば、それだけ多くの製品が作れたのです。
しかし、現代の知識集約型ビジネスにおいては、単純な作業時間よりも、短時間で発揮される「集中力」「創造性」「判断力」が価値を生み出します。
疲労困憊した頭でダラダラと10時間働くより、最高のコンディションで集中した3時間の方が、遥かに質の高いアウトプットを出せる時代です。
脳のパフォーマンスを維持するためには、アスリートのような高度な体調管理が不可欠なのです。

② VUCA時代の到来とストレスの増大

変動性(Volatility)、不確実性(Uncertainty)、複雑性(Complexity)、曖昧性(Ambiguity)の高い現代において、ビジネスパーソンは常に正解のない問題への対応を迫られています。
予期せぬ変化に対応し続けることは、脳と心に莫大な負荷をかけます。
慢性的なストレスは、判断力を鈍らせ、免疫力を低下させます。
この荒波を乗り越えるためには、ストレスを受けても折れずに回復する「レジリエンス(精神的回復力)」が求められます。このレジリエンスの源泉こそが、心身の健康なのです。

③ 労働力不足と人材確保の難しさ

少子高齢化による労働人口の減少は、企業にとって深刻な課題です。「代わりはいくらでもいる」時代は完全に終わりました。 今いる社員一人ひとりの生産性を高め、長く健康に働いてもらわなければ、企業は存続できません。社員を使い捨てにするのではなく、貴重な「資本」として捉え、そのコンディション維持に投資する「健康経営」の視点が、企業の競争力に直結します。


3. 企業アスリートを育てるためにすることは

では、社員を企業アスリートへと育て、組織全体のパフォーマンスを上げるためには、具体的に何をすべきでしょうか。 「自己管理は個人の責任」と突き放すのは簡単ですが、それでは組織は変わりません。企業が主体となって「環境」を用意する必要があります。
社労士の視点からは、以下の3つのアプローチを提案します。

①「身体的エネルギー」の管理:ベースを整える

アスリートの基本は身体です。ビジネスパーソンにとっても、脳の容れ物である身体が健康でなければ、良い仕事はできません。

  • 睡眠の質の確保: 残業削減はもちろんですが、勤務間インターバル制度の導入など、十分な睡眠時間を確保できる仕組み作りが重要です。睡眠不足は「泥酔状態」と同じくらい脳の機能を低下させることが分かっています。
  • 「座りすぎ」の防止: 日本人は世界で一番座っている時間が長い国民と言われています。長時間の座位は血流を滞らせ、死亡リスクを高めます。昇降式デスクの導入や、立って行うミーティングの推奨など、物理的に体を動かす仕掛けが必要です。

②「感情的エネルギー」の管理:心理的安全性の確保

プロアスリートがコーチやチームメイトと信頼関係を築くように、社員も安心して働ける環境が必要です。

  • 心理的安全性: ミスを過度に責めず、挑戦を称える文化を醸成します。「これを言ったら怒られるかも」という萎縮は、感情エネルギーの最大の浪費です。
  • ポジティブな感情の喚起: 感謝を伝え合う仕組み(サンクスカードなど)や、小さな成功をチームで祝う習慣は、感情のガソリンになります。ネガティブな感情(不安・怒り)はパフォーマンスを下げ、ポジティブな感情(楽しさ・挑戦心)はパフォーマンスを上げます。

③「回復(リカバリー)」の戦略的導入

最も重要なのが、この「回復」の視点です。日本の企業は「休むこと=サボること」と捉えがちですが、アスリートにとって休息は「強くなるためのトレーニングの一部」です。

  • 真の休憩: 昼休みにデスクでスマホを見ながら食事をするのは、脳が休まっていません。完全に業務から離れる時間、場所を提供しましょう。
  • 有給休暇の計画的取得: 罪悪感なく休める雰囲気作りが不可欠です。トップ自らが積極的に休暇を取ることも効果的です。

4. 15時のおやつとストレッチでコンディションを整える

最後に、明日からすぐに実践できる、具体的かつ効果的な「企業アスリート化」の戦術をご紹介します。 それが、「15時のおやつとストレッチ」の公式導入です。

人間の生体リズム(サーカディアンリズム)において、起床から約7~8時間後、つまり一般的な勤務時間で言えば午後2時から4時頃は、一時的に覚醒レベルが下がり、強烈な眠気が生じる時間帯です。これは生理現象であり、気合でどうにかなるものではありません。この「魔の時間帯」に無理に頑張ろうとしても、ミスが増え、効率は落ちる一方です。

ここで、F1レースのピットインのように、戦略的なエネルギーチャージを行います。

【戦略1:15時の賢いおやつ(血糖値コントロール)】

脳の唯一のエネルギー源はブドウ糖ですが、ここでショートケーキや甘い缶コーヒーを摂取するのは逆効果です。急激に血糖値を上げる糖質を摂ると、インスリンが大量に分泌され、その反動で血糖値が急降下します(血糖値スパイク)。これが、かえって強い眠気やイライラ、ダルさを引き起こします。

企業アスリートが選ぶべきは、「低GI食品」です。

  • 素焼きのナッツ(アーモンドやクルミ): ビタミンEや良質な脂質を含み、腹持ちが良い。
  • 高カカオチョコレート(カカオ70%以上): ポリフェノールが脳の血流を助け、リラックス効果もある。
  • ヨーグルトやチーズ: たんぱく質が豊富。

これらは血糖値を緩やかに上げ、集中力を持続させてくれます。オフィスに「置き菓子」をするなら、スナック菓子ではなく、これら「戦略的おやつ」を常備することを強くお勧めします。「おやつ=サボり」ではなく、「おやつ=脳への燃料補給」という認識に変えましょう。

【戦略2:全員での一斉ストレッチ(血流改善とリフレッシュ)】

15時になったら、チャイムを鳴らすなどして業務を一時中断し、全員で5分程度のストレッチを行います。 座りっぱなしで凝り固まった筋肉をほぐし、血流を良くすることで、脳に酸素を送り込みます。特に、首、肩甲骨周り、太ももの裏などを伸ばすのが効果的です。

ここで重要なのは「全員で一斉に行う」ことです。 静まり返ったオフィスで一人だけ立ち上がって体操をするのは、相当な勇気がいります。しかし、会社のルールとして全員で行えば、それが当たり前の光景になります。社長も部長も新入社員も、同じ動きをすることで、チームの一体感(結束力)を高める効果も期待できます。ちょっとした雑談も生まれやすくなり、感情的エネルギーの充電にも繋がります。

たった15分の「おやつとストレッチ」の時間が、その後の夕方までのラストスパートの業務効率を劇的に改善します。これは決して時間の浪費ではなく、勝利のための戦略的休息なのです。


まとめ

社員を「企業アスリート」と捉えることは、決して社員を管理し、酷使することではありません。 むしろ、社員一人ひとりを尊重し、彼らが持つポテンシャルを最大限に、そして持続的に発揮できる環境を整えるという、企業の決意表明でもあります。

「疲れた顔をして長時間会社にいる社員」を評価する時代は終わりました。これからは、「心身ともに健康で、生き生きと短時間で成果を出す社員」を評価し、育てる時代です。そのパラダイムシフトこそが、企業の未来を拓きます。

舞島亜喜子社労士事務所では、就業規則の見直しや労働時間管理の適正化はもちろん、健康経営の導入支援や、社員のエンゲージメントを高めるための人事制度設計など、「企業アスリート」が育つ土壌づくりをトータルでサポートいたします。

単に法律を守るだけでなく、働く人と企業が共に健康になれる組織づくり。 社員が、まるでトップアスリートのように目を輝かせて仕事に取り組む、そんな強いチームを私たちと一緒に作っていきませんか。

「うちの会社でも企業アスリートを育てたい」と思われた方は、どうぞお気軽にご相談ください。皆様の会社のコンディション作りを、全力で伴走支援させていただきます。


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